18日の22時に京都大学の望月教授がABC予想の証明に関する論文を発表したというニュースが飛び込んできました。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG1805T_Y2A910C1000000/?dg=1

 ABC予想の説明にはいくつかの定義が必要なので、まず定義を2つ。

定義1 函数r(n)

自然数nに対して函数r(n)を次のように定義する。

n = p1k1p2k2p3k3

のとき、

r(n) = p1p2p3

と定義する。

例えば、

r(24) = r(23 x 3)

であるから、

r(24) = 2 x 3 = 6

となる。

定義2 abc-triple

abc-tripleとは次のような性質を満たす自然数の組(a, b, c)である。

  1. c = a+b
  2. a < b
  3. aとbは互いに素

例えば、a=2, b=3, c=5は上記の条件を満たすabc-tripleです。

お手軽ABC予想

 ここで、不等式r(abc)<cを満たすabc-triple(a,b,c)を見つける問題を考える。

 例えば、さっきのa=2,b=3,c=5の場合では、r(abc)=r(2x3x5)=2x3x5=30>5=cとなり、この不等式は成り立たない。他にも(a,b,c)=(12,23,35)の場合も

r(abc) = r(22 x 3 x 5 x 7 x 23)=2 x 3 x 5 x 7 x 23 > 35 = c

であり成り立たない。いろいろ試してみれば分かりますが、大抵の場合、成り立ちません。

 しかし、いろいろ試すうちに反例が見つかります。

(a,b,c)=(1,8,9)の場合、

r(abc) = (23 x 32)=2 x 3=6 < 9 = c

が成り立ちます。実際、

(a,b,c)=(1, 32n-1,32n)

のときは、反例になることが知られています。

 では、r(abc)がcより小さいことがあるのならば、r(abc)2

ならばどうでしょうか。次の予想のことを山崎教授の言い方に習ってお手軽ABC予想と呼びましょう。1

お手軽ABC予想

abc-triple(a,b,c)は全てc<r(abc)^2$を満たす。

 こんなわけの分からない定理を証明して何になるのかと侮るなかれ。なんとあのFermatの最終定理はこの予想を証明してしまえば、あっという間に証明できてしまうのです。

Fermatの最終定理の証明

Fermatの最終定理

自然数n>2$にたいしてxn+yn=zn$を満たす自然数の組(x,y,z)は存在しない。

 じゃあ、実際に「お手軽ABC予想が証明された」として、Fermatの最終定理の証明をしてみましょう。

自然数n, x, y, zがxn + yn = zn$を満たすと仮定する。(a,b,c)=(xn, yn, zn)$としたとき、(a,b,c)はabc-tripleになるとして良い。
なぜなら、以下のとおり

c = a+b かつ a < b

xnとyn$は対称なので大きい方をbとしてよいので、仮定より成り立つ

また、

aとbは互いに素

aとbの1以外の最大公約数がgがあるとすれば、

a=ga’, b=gb’

と置けて、

c=g(a’+b’)=gc’

より、両辺をgで割って、a’ + b’ = c’とすることができる。

ここで、お手軽ABC予想から、次が成り立つ。

zn < r(xnynzn)2$

また、函数rの定義により、

r(xnynzn)2=r(xyz)2 ≦ (xyz)2

である。(等号成立はx,y,zが互いに素でべき乗数の因数を持たないとき)

さらに、

z2 = x2+y2 > x2, y2

であるから、

(xyz)2 < z6$

である。

これらを繋げると、

zn<r(xnynzn)^2=r(xyz)2\leq (xyz)2< z6 $

よって、zn<z6$,すなわちn < 6である。

ここで、Fermat、Legendreによってn=3,4,5のときは19世紀に証明済み。これらをあわせて、Fermatの最終定理が証明できた。

 つまり、このお手軽ABC予想を証明するということはつまり、Fermatの最終定理のWilesによる証明2とは別の証明を与えたということにもなるのです。

ABC予想

 しかしながら、r(abc)<cが成り立たないのならr(abc)^2<cにしてしまえというのは少し乱暴です。例えば、先ほどの反例(a,b,c)=(1,8,9)のときはc=r(abc)^{1.22629 …}であって、2乗するまでもありません。この部分を厳密にした結果が次のようなものです。

abc予想

任意の実数Κ > 1について
c < r(abc)Κを満たすabc-triple(a,b,c)は高々有限個である。

つまり、指数部分を1より大きくしてしまったら、無限に解が存在するなんてことはないよと、そう言ってるわけです。

Beal予想

 懸賞金10万ドルがかけられている数学の未解決問題の一つにBeal予想という予想があります。実はこのABC予想を、さらに制約をきつくした「強いABC予想」(この名称も山崎教授から拝借した)はBeal予想の証明にもなっているのです。

Beal予想

3より大きい自然数の組(p, q, r)に対して、xp+yq=zr$を満たし、尚且つ互いに素な自然数の組(x,y,z)は存在しない。

強いABC予想

ABC予想でいう有限個のabc-triple(a,b,c)の例外をリストアップする。

 強いABC予想のΚ=12/11の場合を例外をリストアップできれば、Beal予想が解決することになります。詳しく見てみましょう。

Κ=12/11のときの強いABC予想の例外をリストアップ(つまり、Κ>12/11でなくてはABC予想が成り立たないもの)して、(xp, yq, zr)の形のabc-tripleが存在するかを調べます。もし、そのようなものが存在すれば、その時点でその(xp,yq,zr)がBeal予想の反例となるので、例外とならないものだけを対象とします。ここでκ=12/11としたABC予想を満たし、xp+yq=zrを満たす互いに素な自然数の組(xp, yq,zr)が存在するとする。Fermatの最終定理と同様に(a,b,c)=(xp,yq,zr)はabc-tripleとしてよい。

よってzr<(xyz)Κであり、また、xp,yqrであるから、x<(xyz)Κ/p,y<(xyz)Κ/q,z<(xyz)Κ/rを満たす。これらを掛け合わせると、

xyz<(xyz)Κ(1/p+1/q}+1/r)}

 すなわち、

$latex 1<\kappa\left(\frac{1}{p}+\frac{1}{q}+\frac{1}{r}right)=\frac{12}{11}\left(\frac{1}{p}+\frac{1}{q}+\frac{1}{r}right)$ $latex \frac{11}{12}<\frac{1}{p}+\frac{1}{q}+\frac{1}{r}$  ここで、$latex p=q=r=3$のときはFermatの最終定理から証明済み。よって、それ以外で$latex frac{1}{p}+frac{1}{q}+frac{1}{r}$が最大となるp,q,rの組はp=q=3, r=4のとき。つまり、 $latex \frac{1}{p}+\frac{1}{q}+\frac{1}{r}\leq\frac{1}{3}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}=\frac{11}{12}$  これは矛盾である。よって$latex \kappa<\frac{12}{11}$のABC予想を満たす自然数の組の中に$latex x^p+y^q=z^r$を満たす互いに素な組は存在せず、また、例外リストの中にも$latex x^p+y^q=z^r$を満たす互いに素な組は存在しない。よってBeal予想は肯定的に解決される。

 Fermatの最終定理が解決した今、数論の大きな未解決問題であるABC予想の解決は数学界に衝撃を与える結果になるのです。まだ、査読が終わっていないので、完全解決かどうかは分からず、手放しで喜べませんが、査読の結果に期待したいと思います。望月新一教授は「真の天才を発揮する、新たなエルキュール・ポアロ3」になりうるだろうか。


  1. 山崎隆雄, 『フェルマーの最終定理とabc予想』, 数学セミナー 49(12), 2010, pp. 13-17 
  2. A.Wiles, “Moduler elliptic curves and Fermat’s Last Theorem”, Annal of Mathematics 142, 1995, pp.443-551 
  3. D.A.Christie, 堀内静子訳, 『ABC殺人事件』, ハヤカワ文庫, 2003, pp.412